小倉百人一首についで第二弾

あなたの人生に あなたの心の遺伝子に
密かに寄り添っている いにしえの言葉

万葉の言霊

万葉集は奈良時代末期に編纂された
20巻からなる日本最古の和歌集。
約4500首の歌が収められています。
額田王、柿本人麻呂、山部赤人、大伴家持、
天皇や貴族、宮廷歌人が名を連ねています。
また作者不詳の防人や農民など様々な身分の
人々の歌も含まれていて、心豊かで、素朴な
表現、地方の景色、生活、想いがみられます。

素晴らしい日本の文化を大切に守りましょう。

山田みち子の万葉100選


1
三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや ( 額田王)

2
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る (額田王)

3
熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな ( 額田王)

4
君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く (額田王)

5
秋の野のみ草刈り葺き宿れりし宇治の都の仮廬し思ほゆ (額田王)

6
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影に鴬鳴く も ( 大伴家持)

7
東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ (大伴家持)

8
春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子 (大伴家持)

9
我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも (大伴家持)

10
うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば ( 大伴家持)

11
移り行く時見るごとに心痛く昔の人し思ほゆるかも ( 大伴家持)

12
秋山の黄葉を茂み迷ひぬる妹を求めむ山道知らずも ( 柿本人麻呂)

13
天離る夷の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ (柿本人麻呂)

14
淡路の野島が崎の浜風に妹が結びし紐吹き返す (柿本人麻呂)

15
たらちねの母が手放れ斯くばかり為方なき事はいまだ為なくに (柿本人麻呂)

16
あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳に雲立ち渡る (柿本人麻呂 )

17
東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ (柿本人麻呂)

18
ひさかたの天の露霜置きにけり家なる人も待ち恋ひぬらむ (大伴坂上郎女)

19
青山を横切る雲の著ろくわれと咲まして人に知らゆな (大伴坂上郎女)

20
あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり (小野老)

21
この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我れはなりなむ (大伴旅人)

22
生ける者遂にも死ぬるものにあればこの世なる間は楽しくをあらな (大伴旅人)

23
妹が見し楝の花は散りぬべしわが泣く涙いまだ干なくに ( 山上憶良)

24
若ければ道行き知らじ賄はせむ黄泉の使負ひて通らせ (山上憶良)

25
すべもなく苦しくあれば出で走り去ななと思へど子らに障りぬ ( 山上憶良)

26
士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして ( 山上憶良)

27
憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も我を待つらむぞ (山上憶良)

28
ますらをや片恋せむと嘆けども醜のますらをなほ恋ひにけり ( 舎人皇子)

29
いにしへに恋ふる鳥かも弓絃葉の御井の上より鳴き渡り行く (弓削皇子)

30
滝の上の三船の山に居る雲の常にあらむと我が思はなくに (弓削皇子)

31
月読の光に来ませあしひきの山きへなりて遠からなくに (湯原王)

32
吉野なる菜摘の川の川淀に鴨ぞ鳴くなる山蔭にして (湯原王)

33
筑波嶺の嶺ろに霞居過ぎかてに息づく君を率寝て遣らさね ( 東歌: 常陸)

34
かき霧らし雨の降る夜を霍公鳥鳴きて行くなりあはれその鳥 ( 高橋虫麻呂)

35
勝鹿の真間の井見れば立ち平し水汲ましけむ手児名し思ほゆ ( 高橋虫麻呂)

36
秋の田の穂の上に霧らふ朝霞いつへの方に我が恋やまむ (磐姫皇后)

37
道の辺の草深百合の花笑みに笑まししからに妻と言ふべしや (作者不明)

38
わが背子が帰り来まさむ時の為命残さむ忘れたまふな (狭野弟上娘子)

39
君が行く道のながてを繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも (狭野弟上娘子)

40
わが背子と二人見ませば幾許かこの降る雪の嬉しからまし ( 光明皇后)

41
神奈備の磐瀬の社の呼子鳥いたくな鳴きそ我が恋増さる (鏡王女)

42
秋山の木の下隠り行く水の我れこそ益さめ御思ひよりは ( 鏡王女)

43
葦辺行く鴨の羽交ひに霜降りて寒き夕は大和し思ほゆ ( 志貴皇子)

44
石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも (志貴皇子)

45
紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも (天武天皇)

46
今朝の朝明雁が音聞きつ春日山もみちにけらし我が心痛し (穂積皇子)

47
磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君が在りと言はなくに (大伯皇女)

48
ふたり行けど行き過ぎかたき秋山をいかにか君がひとり越ゆらむ (大伯皇女)

49
うつそみの人なる我や明日よりは二上山を弟と我が見む (大伯皇女)

50
相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後に額つくごとし ( 笠女郎)

51
うらさぶる心さまねしひさかたの天のしぐれの流らふ見れば (長田王)

52
燈火の影にかがよふうつせみの妹が笑まひし面影に見ゆ (作者不明)

53
夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜は鳴かず寐ねにけらしも ( 舒明天皇)

54
一つ松幾代か経ぬる吹く風の声の清きは年深みかも (市原王)

55
岩代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた帰り見む ( 有間皇子)

56
家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る (有間皇子)

57
わたつみの豊旗雲に入り日差し今夜の月夜清く照りこそ ( 天智天皇)

58
百伝ふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ ( 大津皇子)

59
あしひきの山のしづくに妹待つとわれ立ち濡れぬ山のしづくに ( 大津皇子)

60
春過ぎて夏来るらし白栲の衣干したり天の香具山 ( 持統天皇)

61
蝦鳴く神名火川に影見えて今か咲くらむ山吹の花 (厚見王)

62
わが里に大雪降れり大原の古りにし里に落らまくは後 (天武天皇)

63
旅人の宿りせむ野に霜降らば我が子羽ぐくめ天の鶴群 (遣唐使の母)

64
たまきはる宇智の大野に馬並めて朝踏ますらむその草深野 (中皇命)

65
夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ (大伴坂上郎女)

66
ひさかたの天の露霜置きにけり家なる人も待ち恋ひぬらむ (大伴坂上郎女)

67
君が行き日長くなりぬ山尋ね迎へか行かむ待ちにか待たむ ( 磐姫皇后)

68
寺々の女餓鬼申さく大神の男餓鬼賜りてその子産まはむ ( 池田朝臣)

69
我のみや夜舟は漕ぐと思へれば沖辺の方に梶の音すなり (遣新羅使人)

70
秋の田の穂の上に霧らふ朝霞いつへの方に我が恋やまむ (磐姫皇后)

71
人言を繁み言痛み己が世に未だ渡らぬ朝川渡る (但馬皇女)

72
いづくにか我が宿りせむ高島の勝野の原にこの日暮れなば ( 高市黒人)

73
古の人に我れあれや楽浪の古き都を見れば悲しき (高市黒人)

74
我が舟は比良の港に漕ぎ泊てむ沖へな離りさ夜更けにけり (高市黒人)

75
桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る ( 高市黒人)

76
黄葉の散らふ山辺ゆ漕ぐ船のにほひにめでて出でて来にけり (玉槻)

77
上毛野安蘇の真麻群かき抱き寝れど飽かぬを何どか吾がせむ (東歌 上野)

78
信濃なる筑摩の川の細石も君し踏みてば玉と拾はむ (東歌 信濃)

79
忘らむて野行き山行き我れ来れど我が父母は忘れせのかも ( 駿河防人)

80
水鳥の立ちの急ぎに父母に物言はず来にて今ぞ悔しき (駿河防人)


81筑波嶺のさ百合の花の夜床にも愛しけ妹ぞ昼も愛しけ (常陸防人)

82
山の端にあぢ群騒き行くなれど我れは寂しゑ君にしあらねば (斉明天皇)

83
田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける (山部赤人)

84
若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る ( 山部赤人)

85
明日香河川淀さらず立つ霧の思ひ過ぐべき恋にあらなくに (山部赤人)

86
春の野にすみれ採みにと来しわれそ野をなつかしみ一夜寝にける (山部赤人)

87
我はもや安見児得たり皆人の得かてにすといふ安見児得たり (藤原鎌足)

88
稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ (東歌 未勘国)

89
大の浦のその長浜に寄する波ゆたけく君を思ふこのころ ( 聖武天皇)

90
一つ松幾代か経ぬる吹く風の声の清きは年深みかも (市原王)

91
あをによし奈良の大路は行き良けどこの山道は行き悪しかりけり ( 中臣宅守)

92
たらちねの母が呼ぶ名を申さめど道行く人を誰れと知りてか ( 作者不明)

93
紫は灰さすものそ海石榴市の八十の衢に逢へる子や誰 (作者不明)

94
冬こもり春の大野を焼く人は焼き足らねかも我が心焼く (作者不明)

95
大海に島もあらなくに海原のたゆたふ波に立てる白雲 (作者不明)

96
たらちねの母が飼ふ蚕の繭隠りいぶせくもあるか妹に逢はずして (作者不明)

97
燈火の影にかがよふうつせみの妹が笑まひし面影に見ゆ (作者不明)

98
大海の水底響み立つ波の寄らむと思へる礒のさやけさ (作者不明)

99
馬買はば妹歩行ならむよしゑやし石は履むとも吾は二人行かむ (作者不明)

100
多摩川に曝す手作さらさらに何そこの児のここだ愛しき (東歌 武蔵)



令和
「令和」の典拠(根拠となる出典のこと)


「令和」の出典は『万葉集』巻五の
梅花謌卅二首并序(梅花の歌 三十二首、并せて序)にある一文。

于時、初春令月、氣淑風和、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香。

上の原文の書き下し文。

時に、初春の令月にして、気き淑よく風かぜ和やはらぎ、
梅うめは鏡前きやうぜんの粉こを披ひらき、
蘭らんは珮後はいごの香かうを薫かをらす。

菅官房長官の記者会見の説明を簡単にすると
下記のようになると思います。

「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、
蘭は珮後(はいご)の香を薫す」


英語では「REIWA」  beautiful harmony (美しい調和)だそうです。


  文と絵 山田みち子